平均寿命が延び出生率が低下するにつれ、高齢者人口は増加し、医療、特に長期にわたる集中的な治療の需要が高まっています。しかし、医療従事者数はその高まりに対応しきれない状況にあるのが現状。世界保健機関は、2030年までに1000万人の医療従事者が不足すると予測しています(出典:WHO)。介護における肉体的・精神的負担の大きさが、賃金の低さと合わさって、仕事に対する満足度の低下を招いており、特に高齢者介護の分野において、労働力の確保が難しくなっているのです。
高齢の患者の多くが、糖尿病や認知症など慢性疾患の治療のみならず、入浴、着替え、食事といった基本的な活動の補助も必要としています。しかし現在、人員不足のために、医療従事者は多くの患者を担当しなければならず、患者一人ひとりへの徹底した治療に力を入れることがなかなか難しくなっている状態です。また資金が足りていないため、十分な給与の提供や充足した労働力の維持が制限されます。
筋力やバランス感覚の低下などにより、高齢者にとって大きなリスクとなる転倒は特に危険です(出典:CDC)。医療施設では担当者が転倒防止に欠かせない存在ですが、やはり人員不足のため常時見守ることは難しくなっています。人員が減ることで対応に時間がかかるようになり、また転倒予防への取り組みも希薄になってしまい、気づかれない間での転倒のリスクが高まります。
では、この問題に対処するにあたり、最も費用対効果の高い方法は何か?
AIカメラの居室や共用部への導入が、その答えになるかもしれません。
ここでは、それが2つの面でどのように役立つかを説明していきます。
①医療従事者をサポートし、負担を和らげる。
スタッフ数が限られている施設では、AIカメラの導入で見守り役を補うことができます。これにより、人的資源が手薄な場合でも、患者が常時見守りを受けられるようになります。
これらのシステムは、転倒のリスクが高い個人を特定するために、時間の経過に伴う動作の変化や行動のパターンを分析することができます。AIは、不安定な動作やつまずきの多さなどの注意が必要な行動を認識することで、「動きが異常に遅い」「足を引きずっている」など、転倒の危険性を示す異常な動作や行動を即座に検知し、転倒を未然に防ぐことができます。即時の通知により、担当者は事故を防ぐために迅速に対応することが可能になります。正確な分析と患者ー担当者間におけるリアルタイムの仲介は、高額な治療を防ぎ、判断ミスの可能性を低減し、より安価な治療によって患者の回復を目指すことができます。
もし転倒が起きた場合、AIカメラのない状況と比べてどう良くなるのか?
思いがけない転倒事故が発生した場合、AIは事故発生時にフロアにいなかった担当に即時通知を送信することができ、事故の深刻度を下げ、治療の遅れによる合併症を減らす可能性があります。
多くの医療センターでは、事故の発見を担当者に知らせるためにナースコールを使用しています。しかし、これらの装置は、転倒時に必ずしも実用的であるとは限りません。というのも、患者がひどく負傷してシステムが使用できない場合や、周りに人がいない状況で転倒する場合があるからです。
見守り機能を備えたAIカメラシステムは、いつでも絶え間なく周囲の見守りを行うことができます。これによって、より広い範囲を十分にカバーできるため、当直スタッフの負担が軽減され、他の業務にも専念できるようになります。
AIカメラの導入は、個人の雇用よりも費用対効果が高いのだろうか?
医師や看護師などの医療従事者の養成には、費用と時間がかかります。医学教育に関連する費用には、授業料、教科書、備品、臨床研修などがあります。さらに実習よりも理論を学ぶことに時間を要します。それに加え、医学部や研修プログラムにはまた、施設、学部教員、教材に多額の費用が必要です。(出典)
このような高コストは、特に資金が限られている地域において、医療従事者数拡大の障壁となり得ます。多くの医療機関や政府は、教育や訓練に十分な資金を割り当てることができず、有資格者の不足を引き起こします。さらに、医療研修の修了に時間がかかるため、目前の医療ニーズに対応できる新しいスペシャリストの確保が遅れることもあります。
AIによって資金管理を最適化することで、医療施設は既存のスタッフや設備をより有効に活用することができます。この最適化によって、最新のリソースが可能な限り効果的に使用されるようになり、追加人員や研修の必要性が低下します。
AIカメラは、休憩やシフト、残業手当を必要とせず、24時間稼働することができます。これにより生産性を向上させることができるうえ、足りないシフトをまかなうための追加スタッフの必要もなくなります。進行中の課題をまかなうための複数シフトの兼任を回避することも期待できます。結果として、スタッフの過労を防ぐことにつながり、キャリアの継続が見込めます。
②患者とその家族にとってのメリット
転倒率や転倒による大きなけがの減少といった明らかな利点のほかに、AIカメラの導入は患者やその家族に与える効果も考えられます。
AI技術は、高齢者の安全を優先しながら、その自立を大きく推し進めます。高齢者は常に人に見守られることなく生活空間を移動することができ、より自由に日々の活動を送ることができるようになります。というのも、スタッフによる常時の見守りにより、患者の自立心が損なわれる可能性があるのです。一方AIカメラに頼ることにより、見られている感覚を取り除くことができ、より自由に日課や趣味に取り組むことで日々の幸福度の向上に繋がります。
家族にとっても、AIカメラの導入は安心感をもたらします。大事な家族が、常に「高度な知能を備えたカメラがある空間にいる」ということを知っていることは、特にスタッフ数が限られている環境において安心です。スタッフが忙しい場合においても、信頼できるシステムによって見守られ、異常な行動や転倒の可能性をすぐに検知し駆けつけられることを知っていることで、家族は心置きなく過ごすことができます。不安が軽減され信頼が高まることになり、医療機関や介護施設に高齢者を入所させるハードルが下がります。その結果、家族内の負担を減らし、患者とその家族の間の関係性をより深めることにつながります。
AIを医療に取り入れることで、高齢化と労働力不足という課題に対処できます。AIは休むことなく見守りを行って転倒リスクを低減し、患者の安全を向上させることで、高齢者の自立性を高め、家族に安心感を与えます(出典)。また、管理業務を簡素化し、遠隔治療をサポート、リソースを効率的に管理することができるため、スタッフを増員する代わりになるような費用対効果の高い選択肢と言えます。人間による治療に取って代わることはできませんが、ケアシステムを効率的に活用することで、スタッフが患者個人個人のケアに集中できることやケアの質向上につなげることができるのです。